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日本酒は同じように作っても個性豊かで面白い!でも、なぜだろう?酒好きの化学工学屋が調べてみた

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photo credit: nicola.albertini Sake via photopin (license)

 

あけましておめでとうございます!てけです。

 

 

ついに2017年になりましたね。お正月に入って、お酒を飲んでいる方も多いのではないでしょうか。

 

僕はお酒が大好きで、昔は特によく飲んでいました。ビール、日本酒、ラム、ウイスキー、ブランデー、ワイン、芋焼酎などなど、基本的に全部いけます。

 

ところで、お酒ってどうやって作るのかを詳しく知るためには、化学工学の知識が必要になってくることはご存知でしょうか。お酒には、発酵という化学反応が欠かせないので、化学反応をコントロールするために、化学工学の知識は不可欠なのです。

 

お酒を作る方々は、化学工学の理論を使わずに、経験と勘で作っているかもしれませんが、今回は少し、化学工学の視点から、日本酒とワインについて、のぞいてみませんか?

 

「日本酒の方が、ワインに比べて味のコントロールが難しい」と言われる理由

僕は、関西に暮らしていた時に、伏見の日本酒をよく買って飲んでいました (今も、京都に行く時には伏見に買いに行きます。)。行きつけのお店があり、杜氏の方とお話をすることも好きで、よく話をしていました。その中で、ある杜氏の方がこのようなことを言っていました。

 

日本酒は、ワインと違って、味のコントロールをするのが本当に難しいんです。正直、毎年、完全に同じ味の日本酒を作り続けられるとしたら、それは、奇跡に近いんですよ。逆に言えば、同じ銘柄の日本酒でも、毎年味が少し違っているので、その個性を楽しむことも醍醐味です。それぞれに個性がある点では、日本酒は子供と一緒です。なので、私にとっては日本酒は子供みたいなものです。

 

私は、その話を聞いていて、なぜなのかすごく気になりました。そこで、日本酒の製作過程についてお話を聞き、勉強をする中で、その理由がわかってきたので、お話をしたいと思います。

 

日本酒の味をコントロールしにくい理由は、逐次反応 (serial reaction) にあり!日本酒の発酵とワインの発酵を比べてみよう!

 

まず、前提として、日本酒とワインで、それぞれ何を発酵するのかを確認してみましょう。

 

日本酒: 米の中心部にあるでんぷん

ワイン: ぶどうの糖分

 

では、発酵を進めるために必要なものは何でしょうか。

 

日本酒: 麹と酵母 (2種類必要)

ワイン: 酵母 (1種類でOK)

 

(解説)「酵母」というのは、菌類の一種で、「生きている触媒」とも言えるものです。触媒は、特定の化学反応を促進してくれるものですが、生き物の中にも、特定の化学反応を促進してくれるものがあるのです。

 

ここで、皆さんの中には、以下2つのことに気づかれた方がいるかもしれません。

 

  1. 日本酒は麹と酵母の2種類の菌を使って、発酵をさせるけれども、ワインは、酵母のみを使って発酵させる。
  2. 日本酒は「でんぷんを糖分に変える」反応と、「糖分をアルコールに変える」反応の2種類の反応を利用して作るが、ワインは「糖分をアルコールに変える」反応のみで作ることができる。

(注意!) 実際は、日本酒やワインの発酵過程では、他にも様々な反応が起こっています。しかし、それらの細々した反応は、簡略化のため一切無視しています。

 

では、この2つの違いが、どのように日本酒とワインの味を変えていくのかをお話しします。

 

ワインの発酵反応

ワインの発酵反応は、「糖分をアルコールに変える」反応のみでした。発酵が始まると、ぶどうの中に含まれている糖分の濃度は、滑り台を滑るかのように一気に下がっていき、代わりに、アルコールの濃度がどんどんと上がっていきます。この時、目標とする糖分濃度に対応するアルコール濃度はたった1種類しかありません。なので、目標とする糖分濃度を実現した時に発酵を止めてしまえば、アルコール濃度は自動的に決まります。

 

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日本酒の発酵反応

対して、日本酒の場合は、「でんぷんを糖分にする」反応と、「当分をアルコールにする」反応の2種類を、連続して起こすことで発酵させます。このように、2種類の反応が連続して起こっている時、一連の反応をまとめたものを「逐次反応 (series reaction)」といいます。

 

この反応において、糖分に注目してみましょう。糖分は、お米のでんぷんから生まれながら、同時にアルコールへ消費されています。なので、糖分濃度は、時間が経つたびに、一旦大きくなり、その後小さくなります。

 

つまり、お米のでんぷんが分解されて糖分濃度が増えていくときに、まず一旦、目標とする糖分濃度を達成し、その後、増えた糖分がアルコールに変わるために消費される過程で、また目標とする糖分濃度に到達する時が来ます。結果として、同じ糖分濃度でも、複数のアルコール濃度を持つ、全く違った種類の日本酒を作ることができるというわけです。

 

日本酒の味の幅の広さは、この「逐次反応」がなせる技なのです。そして、この逐次反応をコントロールすることが難しいため、同じ味を作るためのレシピや発酵時間を確立しにくいことから、同じように作っても日本酒の味が微妙に変化することに繋がるのです。

 

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お酒の世界は、化学工学屋にとって、好奇心を刺激される面白い分野であり、また素晴らしい研究分野でもあります。僕の大学の卒業生でも、ビール会社やウイスキーの蒸留所に就職した人もいますし、身近でありながらとても奥が深い世界なのです。

 

過去に、つけ麺やウイスキーの水割りについても記事を書きました。よかったらこちらもご覧いただけたらと思います。結構みてくださっている方が多かった記事なので、紹介しておきます。

 

arts-and-sciences-in-society.hatenablog.com

 

 

まとめ

今回のお話は本当に導入編しか紹介していません。この記事で大事なところは:

  • ワインは、「ぶどうの糖分をアルコールに変える反応のみ」起こっているのに対して、日本酒は、「米のでんぷんを糖分に変える反応と、糖分をアルコールに変える反応が同時に起こっている」という違いがある
  • 日本酒は逐次反応によってできるので、より複雑な化学反応をコントロールする必要がある。結果として、味のコントロールは難しくなり、個性豊かなお酒ができやすい

といったところでしょうか。

 

専門家向けに発酵の世界を語るとなれば、ゴリゴリと微分方程式を書き連ねていく必要がありますので、詳細な解説はここでは割愛しています。今回の記事は、化学工学を知らない方であっても、「化学工学を知ることで、お酒に関する味方が少し変わるよ」といったところを感じて欲しくて書きました。

 

化学工学の世界を少し知るだけで、お酒がどのようにしてできるのかについての理解が深まるだけでなく、ロックや水割りがなぜ美味しい飲み方なのかを理論的に理解することができます。なので、お酒の飲み方についての理解が深まります。さらに発展すれば、お酒の種類によって、最も美味しい飲み方を理論的に考えることもできるようになるでしょう。どうでもいいことかもしれませんが、お酒について、変にマニアックになれますよ。僕自身お酒が好きなので、お酒の世界と化学工学の世界を絡めて、これからももっと皆さんに紹介したいです。

 

今年も、そしてこれからも、よろしくお願いします!

 

 

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